住友商事より配当金を貰ったので同社の配当状況と6つの事業セグメントについてに紹介する。
また商社は完全な縦割り組織の企業であり、一度ある事業部に配属されたらずっとそこで仕事をすると言われているが、常に変革が求められるこのご時世、そんな体制では他社にやられてしまうということで改革を進めている。
そこらへんも説明したい。
この記事の目次
配当実施状況
住友商事は中間と期末で年2回配当を行っている。権利確定と配当振込の時期は次のようになる。
■権利確定日と振込日
- 中間配当:確定9月末、振込12月上旬
- 期末配当:確定3月末、振込6月下旬
また直近の1株あたりの配当実績は次のようになる。
年度 | 年間 | 増配率 |
---|---|---|
2019年度 | 90円 | +20.0% |
2018年度 | 75円 | +21.0% |
2017年度 | 62円 | +24.0% |
2016年度 | 50円 | 0% |
2015年度 | 50円 | 0% |
2014年度 | 50円 | +6.4% |
2013年度 | 47円 | +2.2% |
2012年度 | 46円 | – |
資源価格下落により16年ぶりの最終赤字となった2014年度あたりは配当額を据え置いたが、業績が回復してきた直近では20%を超える増配を実施している。
配当性向30%を目安とした経営計画。増配についても言及している
配当実施関して住友商事は中期経営計画(2020)において利益成長に伴った増配と配当性向30%の数値目安について言及している。
■現中期経営計画(2020)
配当政策
当社は、株主に対して長期にわたり安定した配当を行うことを基本方針としつつ、中長期的な利益成長による配当額の増加を目指して取り組んでいます。「中期経営計画2020」においては、連結配当性向30%程度を目安に、基礎収益やキャッシュ・フローの状況などを勘案の上、配当額を決定します。
これは前中期経営計画(2017)と比べると次の点で異なっている。
①増配についての言及
②配当性向目標のアップ(25%→30%)
③配当下限の削除
■前中期経営計画(2017)
2015年4月からスタートした中期経営計画「Be the Best, Be the One 2017」においては、1株当たり50円を年間配当金の下限とし、連結配当性向を25%以上を目安に、基礎収益やキャッシュ・フローの状況を勘案のうえ、配当額を決定します。
住友商事配当政策より
前経営計画期中では業績悪化による減配不安を払拭するため配当金額下限50円の保証を明記していたが、業績が急回復している現経営計画の期中においてはこの下限を廃止し、代わりに増配について言及するようになった。
利益水準が順調に上がっていけば積極的な配当の増加が望める一方、前回のように資源価格の暴落と多額の減損が発生した場合は、配当下限の設定がない分、大幅な減配になる可能性も無くはない。
同社は前回の教訓より資源依存からの脱却を進めているのであまり心配する必要はないとは思うが念のため留意しておくべき点だと考える。
住友商事の6つの事業部門
次は住友商事の事業セグメントについてご紹介。同社の事業は現在6つの部門分かれている。
■事業部門
- 金属事業
- 輸送機・建機事業
- インフラ事業
- メディア・デジタル事業
- 生活・不動産事業
- 資源・化学品事業
各事業の業績は次のとおり。
2017年度 | 2018年度 | |||
---|---|---|---|---|
事業部門 | 利益 | シェア | 利益 | シェア |
金属 | 354億円 | 11.28% | 405億円 | 12.86% |
輸送機・建機 | 708億円 | 22.55% | 520億円 | 16.51% |
インフラ | 357億円 | 11.37% | 644億円 | 20.44% |
メディア・デジタル | 590億円 | 18.80% | 475億円 | 15.08% |
生活・不動産 | 345億円 | 10.99% | 421億円 | 13.37% |
資源・化学品 | 785億円 | 25.01% | 685億円 | 21.75% |
比較的バランスが取れた事業ポートフォリオ。
それぞれの事業概要について説明する。
金属事業部門
金属事業部門では鋼材、鋼管などの鉄鋼製品やアルミ、チタンなどの非鉄金属製品の取引を行っており、各製品は自動車や家電、船舶や鉄道などで様々な用途に使われている。
金属事業ではスチールサービスセンターという拠点を世界各国に設けており、顧客ニーズに合わせて「必要な形状で、必要な時に、必要な数量」だけ鋼材を提供することが可能になっている。
輸送機・建機事業部門
輸送機・建機事業部門では航空機リースや建機リースなど総合リース事業を行っている。
特に航空機リースでは三井住友FGと共同出資しているSMBC Aviation Capitalが世界トップ5の地位にあり、国内では自動車リース業界2位の住友三井オートサービスを通して事業を行っている。
インフラ事業部門
インフラ事業部門では社会インフラ事業、電力インフラ事業、物流インフラ事業の3事業で構成されている。
日本の鉄道運行システムの海外輸出の話題をニュースで見ることがあると思うが、そこにも住友商事の社会インフラ事業が絡んでいることが多く、直近ではミャンマーの鉄道改修案件を受注している。
また電力インフラ事業では発電設備の建築工事請負ビジネス(EPC)と自社発電・売電ビジネス(IPP)の両方を国内外で手がけている。
国内においては子会社のサミットエナジーグループが新電力会社として事業を行っており、2005年には国内初の本格的なバイオマス発電設備の運転を開始している。
物流インフラ事業では一般的な物流サービスを提供するのみならず、海外工業団地の開発なども手がけている。
メディア・デジタル事業部門
メディア・デジタル事業部門ではケーブルテレビのJ:COMやテレビ通販のショップチャンネル、携帯代理店のティーガイアなど身近な企業を傘下に持っている。
これに加えてシステムインテグレーター大手のSCSKも同事業部門に属しており、SCSKのIT技術力と上記各事業会社のプラットフォーム機能を組み合わせて新しいサービスの開発を日頃行っている。
また海外事業ではKDDIと共同で通信事業をミャンマーで営んでおり、通信インフラ上でコンテンツサービスやモバイルマネーサービスを展開するなどプラットフォーム化も進めている。
生活・不動産事業部門
生活・不動産事業部門には3事業分野があり、ライフスタイル・リテイル分野では食品スーパーのサミットとドラッグストアのTomosを中心としてリテイルサービスを展開している。
食料分野では食料輸入販売を国内で手がける住商フーズと欧米でトップシェアの青果販売を手がけるFyffes社を中心に事業を行っている。
そして生活資材・不動産分野では商社でありながらも総合不動産ディベロッパーとして不動産関連全般の事業を行っており、そこから派生して木材、建材、セメントなどの生活資材関連事業、林業運営の森林事業、木材チップ等を使ったバイオマス事業と幅広くビジネスを展開している。
資源・化学品事業部門
資源・化学品事業部門については資源関連では銅、ニッケル、亜鉛、石炭、鉄鉱石、石油・天然ガスなどの生産権益の保有とトレードを行っており、化学品関連では各種化学品や電子材料などのトレードと製造の両方を行っている。
その他にも医薬、化粧品、農薬、肥料、動物薬も取り扱っている。
この部門はザ・商社の事業といった感じ。
縦割り事業部制の弊害と改善に向けた取り組み
商社は従来より縦割り型の組織だと言われており、例えば一度新卒で食料事業に配属されると基本的にはずっとそこで経験を積み、その部門のプロフェッショナルを目指すというキャリアを歩むことになる。
このような体制は専門性の高い人材の育成が可能となり事業の展開スピードも早まるというメリットがある一方、その分野だけで完結する組織体制になるため、新しいビジネスの発想が生まれにくいという課題もある。
住友商事では市場環境の急速な変化にすぐ対応できるよう、この問題の解決にはいち早く取り組んでおり、組織・人材と企業文化の観点で次のような改革を進めている。
課題 | 改⾰ | |
---|---|---|
組織・⼈材 | ●縦割り組織 ●固定化された⼈材配置・知⾒の偏在 ●産業を超えたビジネス創出の難しさ |
●横串体制の構築 ●ビジネス × デジタル思考⼈材 ● Diversity & Inclusion (外部エキスパート登⽤、パートナー提携) |
企業⽂化 | ●年度毎のPL重視の経営 ●メーカー・製品志向 ●『失敗しない優秀さ』を評価 ●ボトムアップ |
●中⻑期視点での価値創造経営 ●デザイン思考(顧客視点重視) ●『Start Small』・『Fail Fast』 ●トップダウン |
組織・人材の課題についてはやはり商社独自のものといった感じがするが、企業文化の課題はどれも日本企業あるあるの内容で全てに同意できる。特に”『失敗しない優秀さ』を評価“とか日本の企業文化そのもの。
また”ボトムアップ“を課題にあげているのはさすがだなと思う。というのも日本の会社は下が考えた企画を稟議という形で順番に上へ上げていくスタイルが一般的で、その際にあーだこーだ言われるのを回避するために事前の根回しをしたり、キーパーソンには個別アプローチをして予めおさえておいたりといろいろ面倒で進みが遅い。
また上の偉い人も偉い人で自分は何も企画せず、ただ下から上がってきた企画書にイチャモンを付けるだけの評論家状態になっている。
これを直すにはある程度のトップダウン式も必要だと個人的には考えている。
DXを積極的に推進している
上記改革の中心的な役割を果たすのが、情報システム部隊からなる全社横断型専属組織のDXセンターである。
DXとはデジタル・トランスフォーメーションを意味する言葉で、デジタル技術を使ってビジネスの変革を起こすという意味合いで使われている。
住友商事ではこのDXセンターと各事業部門で交流の場を持たせ、各現場の課題解決、アイデア創出、収益構造変⾰を進めていっている。
総合商社ならでは強みとしては10万を超える様々な産業分野のクライアントとの接点が挙げられる。同社はこれをデジタル変⾰の中の可能性の宝庫と捉えている。
■DXセンター
DXセンターの推進役としては企画部門とIT部門のマネージメント層も参加した委員会を設置しており、経営企画部も参加した形で横串の運営体制を構築している。
また社外のスタートアップや大手IT企業とのオープンコラボも積極的に推進している。IT企業っぽい取り組みだと思う。
商社は今後もうまくやってくれるでしょ
商社は資源・エネルギーに依存した事業展開をしているというイメージがあり、資源価格の変動に業績が左右されるということで一部の投資家から嫌厭されることもある。
ただ、今回紹介した住友商事のように実際はかなり幅広い事業を行っており、利益面でも各事業のバランスは取れている。
いろいろ言われることもあるが、今後も商社はうまくやってくれると思っている。
期待しています。