米国企業Visaの超マニアックな解説。ネット上に転がっているありきたりな内容とは異なります

今更ながらVisaの株を買ったので会社紹介をしたい。

ネット上に転がっているありきたりな内容ではなく、超マニアックな内容で解説したいと思います。

Visaについて(ネット上にたくさん転がっている超ありきたりな情報)

まずはありきたりな説明。

Visaは世界規模の決済インフラを提供するペイメントテクノロジー企業。

カードブランドとして有名な同社だが、Visa自体はカード発行を行っておらず、同社よりライセンスを受けた各金融機関がエンドユーザー向けにVisaブランドカードを提供するという形をとっている。

Visaはメンバーとなった各金融機関よりライセンス料や決済インフラ利用料を受け取っており、何もしなくてもカード決済が行われるたびに手数料収入が入る仕組みを構築している。

この優秀なビジネスモデルのおかげで営業利益率は66~67%と超高収益体質となっている。

将来性に関しては、世界に張り巡らされた独自の決済インフラが高い参入障壁となっており、その中の限られたインフラビジネスを展開する競合数社(MasterやAMEX)と比較しても圧倒的な知名度でVisaブランドは世界で高いシェアを誇っている。ネットワーク効果の効くビジネスモデルということもあり、余程のことが無い限りこの状態は崩れることがなく安泰。

また日本のキャッシュレス推進に見られるような国が進める政策やApple Payのようなグローバル企業が展開するモバイル決済サービスの導入により、今後もカード決済シーンは増えていくことが見込まれる。

このようにVisaは決済インフラの提供という独自のビジネスモデルを展開する高収益企業であり、今後の市場拡大と合わせて将来性も十分に見込める。

投資先としては非常に魅力的。

ネット上ではこんな情報をひたすら膨らませて記事にしているサイトが多い。

Visaが提供するライセンスって何?

ではここからマニアックな内容。

Visaは金融機関向けにライセンスを提供していると言われているが、実際のライセンス提供方法は思っている以上に戦略的に行われている。

Visaが提供するライセンスは主に2種類存在している。

1つがイシュイング(発行)ライセンスで、もう1つがアクワイアリング(獲得)ライセンス

何が違うのかというと、イシュイングライセンスは名前のとおりカードを発行するためのライセンスであり、クレジットカード会社等がVisaカードを発行する際に必要なものとなる。ライセンスを持っている企業でなければカード事業は営めない。

一方のアクワイアリングライセンスはVisaカードの決済可能店舗を開拓するためのライセンスとなる。

こちらはあまりイメージがつかないと思うが、同ライセンスを持つ企業はカード決済の受け入れを希望する店舗と直接契約を行い、Visaカードの決済環境を店舗内に構築することが出来る。逆にこのライセンスを持つ企業でなければ、カード決済端末などを店舗に設置することは出来ない。

Visaは自社の決済インフラの取引量を増やすために、Visaカードを利用する人Visaカードが使える店を増やすための2種類のライセンスを外部企業に与え、自身は働くことなくカード利用環境の拡充をさせている。しかも世界規模で。

一方で競合他社はどうかと言うと、Masterは同じように2種類のライセンス提供を行っているが、AMEXやJCBにはアクワイアリングライセンスという概念はない。

店の開拓はすべて自らが行っている。

■ライセンスの提供有無
イシュイング アクワイアリング
Visa
Master
AMEX
JCB

これがVisaとMasterは世界で広く使えるが、AMEXとJCBは使えないお店が多いと言われている理由。

ライセンスを受けた企業のメリットは?(カード発行会社と店舗開拓会社)

Visaはカード利用が増えれば儲かるビジネスモデルなので、メンバーにライセンスを与えてカード利用者とカード決済可能店舗をどんどん増やしていけば良い。

一方のライセンスを受けた企業側にはどのようなメリットがあるのかという部分を説明したい。

ここでもVisaは自社インフラ内の取引量が増えるように戦略的なルール作りをしている。

イシュイングライセンス企業(カード発行会社)

まずイシュインングライセンスを受けた企業。思い浮かべるのはクレジットカード会社だと思うが、敢えてVisaデビットを発行する銀行のケースで説明したい。

クレジットカード会社ならリボ手数料やらキャッシング手数料やらで分かりやすいのだが、デビットカードにはそのような機能は無い。

ではイシュイングライセンスを受けた銀行はどこから利益を得ているのかというと、Visaが定めるIRFと呼ばれる取引レートに基づいた手数料が収益になる。

IRFとはカード発行会社と店舗獲得会社の間で精算される手数料。店舗でカード決済が行われると、その店舗を開拓したアクワイアリングライセンス企業から決済カードを発行したイシュイングライセンス企業へIRFを精算する。

仮にIRFレートが1%でカード決済金額が5,000円であれば、50円がカード発行会社の収益になる。ここではVisa自身はIRFで儲けることはなく、あくまでもIRF料率を決定する立場にいるのみ。

これがVisa決済インフラ内で定められたルールに基づくカード発行会社の収益となる。

それ以外にカード発行会社が独自に徴収するカード年会費であったり、クレジットカード会社であればリボルビング手数料やキャッシング手数料などが加わる。

■カード発行会社の収益

  • IRF
  • 年会費
  • リボルビング手数料
  • キャッシング手数料

アクワイアリングライセンス企業(店舗獲得会社)

店舗と契約してカード決済環境を増やす立場にあるアクワイアリングライセンス企業の収益は、店舗と個別に取り決めたカード決済手数料になる。

具体的にはカード利用額の3%だったり4%だったり店舗と契約時に条件を取り決め、カード決済が行われるたびに手数料分を差し引いて店舗へ振込む。

この手数料率にVisaは関与しないのだが、店舗獲得会社にとってはIRFはコストになるため、その部分を考慮した形で料率を定めている。

具体的には次のようなイメージ。

■条件

  • IRFレート1%
  • カード決済手数料率3%
  • 決済金額5,000円

■収益

5,000円×(決済手数料率3%-IRF1%)=100円

このように店舗獲得会社は店舗との間で取り決めたカード決済手数料とIRFコストとの差分が収益となっている。

Visaは戦略的にIRFを設定している

ライセンスを受けた各企業の収益にIRFが大きく関係しているが、Visaは業種に応じてIRFを細かく設定しており、カード取引量の最大化を目的に定期的な改定を行っている。

具体的にはカード決済環境があまり整っていない分野には低いIRFを設定し、店舗獲得会社による加盟店開拓を促進する。(店舗獲得会社にとってはIRFはコストになるので低ければカード決済手数料との利ざやが大きくなる)

一方でカード決済環境は整っているのだが、実際にカード決済を行う人が少ない場合は高いIRFを設定する。(カード発行会社にとってはIRFは収益となるので、意図的に高IRF分野での利用促進を行う)

このようにVisaはただ単に決済インフラを提供するだけではなく、戦略的なルール改定等を行いカード取引量の拡大を図っている。

Visaの決済インフラは世界規模の超巨大ネットワーク

次にVisaの決済インフラについて紹介。

Visaが世界中に構築している決済インフラはVisaNetと呼ばれている。

■VisaNet

このネットワークには主に3つの処理機能を備えている。

まずはオーソリゼーションと呼ばれるカードの有効性を確認する処理。

これはカードが無効になっていないか、取引金額は限度額の範囲内か(デビットカードであれば銀行の口座残高が足りているか)などを取引前に確認する手続きになる。

オーソリゼーションで問題が無いと判定された後はクリアリングと呼ばれる精算処理が行われる。

これが済んだ段階で正式にカード決済は完了となり、カード決済代金は後日カード発行会社経由で利用者へ請求される。

それぞれの処理は次のようなフローで行われる

■オーソリゼーション(有効性確認)

①有効性確認:
店舗→店舗管理会社→VisaNet→カード発行会社

②有効性回答:
店舗←店舗管理会社←VisaNet←カード発行会社

■クリアリング(売上処理)

店舗→店舗管理会社→VisaNet→カード発行会社→利用者

そして最後にセトルメントと呼ばれる処理が行われて終了となる。これは全取引を集計して、カード発行会社から店舗管理会社へ代金を精算する処理になる。

そして店舗管理会社は店舗へ手数料分を差し引いたカード決済代金を振り込んで精算は完了する。

■セトルメント(精算処理)

店舗←店舗管理会社←VisaNet←カード発行会社

これら各処理においてVisaは決済インフラ利用料を課金している。

普段カードを使っていても特に意識はすることは無いのだが、裏ではこのような処理が瞬時に行われている。しかもVisaカードが使えるお店であれば世界どこでもVisaNet経由で処理が行える。

そしてこのような大規模なネットワークを有しているのはVisaのみ。

競合のMasterに関してはBanknetと呼ばれる同様の決済ネットワークを構築しているのだが、日本においてはまだ未整備。

日本国内ではカード会社が集まって設立された日本マスターカード決済機構と呼ばれる組織(Masterとは無関係)が現在精算処理を行っている。

■Masterの国内処理

店舗⇔店舗管理会社⇔日本マスターカード決済機構⇔カード発行会社

実はVisaの方が進んでいる。

Appleは決済インフラにタダ乗りしているのでVisaと喧嘩をした

最後にApple Payについて紹介して終わる。

Apple Payはリリース当初よりグローバルではVisaブランドに対応していない。(日本はガラパゴス仕様の特殊事情があるので一部対応あり)

理由はAppleがVisaの決済インフラにタダ乗りをして勝手に手数料まで徴収しようとしたからだと考えられている。

Apple PayはVisaやMasterが提供しているNFC決済と呼ばれるモバイル決済機能をiPhone上で実現しているだけであって、実際には今までのクレジットカード/デビットカード決済と変わりはない。決済インフラも既存のVisaやMasterが運用しているものを使っている。

それだけなら別に良いのだが、現在Appleはカード発行会社に対してApple Pay決済手数料を独自に徴収している。

本来であれば自前で決済インフラを整えて手数料を徴収すべきなのだが、VisaやMasterが構築したインフラを使いながらも、Appleはそのインフラ上で勝手に商売を始めているというのが実情となる。

Apple Pay利用であってもカード決済であることには変わりはないため、従来どおりVisaやMasterはカード発行会社から決済インフラ利用料を徴収している。

従って両社の事業に直接的な影響は無いのだが、勝手にカード会社とやりとりされているのであまり良い気分はしていないはず

そんな裏事情がある。

以上です。